MeV全天観測衛星COSIを用いた0.2-5 MeVの宇宙観測の革新


Last update, 2023/12/16
    MeV 帯域は、電波からTeVガンマ線にわたる全ての観測可能な電磁波帯域において、最も観測感度が不足している 多波長天文学随一のフロンティアである。0.1--30 MeVという広いエネルギー域の中には、原子核相互作用や電子陽電子対消滅線(511 keV輝線)などの重要なプローブがあり、宇宙線粒子加速の低エネルギー端を知ることができ、情報量が多い極めて重要な帯域である。しかしながら光子と物質の主たる相互作用がコンプトン散乱で、光電吸収(主に <100 keV)や電子陽電子対生成(主に>30 MeV)と異なり、全エネルギーを荷電粒子に変換しないため、入射光子の情報再構成が難しい。この帯域ではコンプトン散乱を再構成する「コンプトン望遠鏡」が最も高性能であるが、量子力学的限界のためにそのままでは角分解能が最高でも数度に限られ、まさに原子核物理のせいで検出器由来のバックグラウンド(BGD)も高い。過去最高感度を達成したCGRO衛星COMPTEL検出器ですら30個ほどしか天体を検出できておらず、数千を超える天体を観測したGeV、TeVガンマ線よりも2--3桁も感度が劣る。COMPTELは1990-2000年に観測をし、多くのデータ解析が進んだ。その後、エネルギー分解能に優れるGe半導体の光電吸収型検出器アレイと符号化マスクを組み合わせ MeV帯域で2.5°の角分解能をもつINTEGRAL衛星SPI検出器により、特に511 keVおよび1.8 MeV輝線の銀河系内分布の研究は進展したものの、感度が不十分なこともあり、これ以外に大きな進展はない。解析もやり尽くされた結果、 1桁の感度向上で解決する高エネルギー天体物理学上の「目の前の課題」がいくつも存在することも特徴である。

    こうした中、四半世紀ぶりのMeV全天観測衛星が、2027年NASAが打ち上げ予定でアメリカのUCバークレー校が開発の中心となっているCOSIである。シンチレータ検出器ベースのCOMPTELと比較して、1--2桁もエネルギー分解能の高いGe半導体を用いる次世代コンプトン望遠鏡で、1桁高い感度を実現する有効面積が大きく散乱角分解能は 511 keVで 3.2度、1.8 MeVで1.2度とCOMPTELより約3倍改善し、エネルギー分解能は数十倍良い。COMPTELが観測できない0.2--1 MeVを含め 5 MeVまでをカバーし、特に0.2--2 MeVでは桁違いの輝線感度を持つ。我々はその計画にも提案当時からメンバーとして参加し、開発に貢献している。

    我々の貢献は、4つある。
    ・1つめは、データ解析ソフトの開発であり、別項目の「次世代の半導体コンプトン望遠鏡開発」の経験を生かしたものである。
    ・2つめは、Background and Transient Observer と呼ばれるサブ検出器の開発チームへの参加であり、我々の衛星搭載シンチレータ検出器の開発経験を生かしている。
    ・3つめは MeV ダークマターと 511 keVの科学研究で、東京大学 Kavli IPMUの理論研究者などと連携しつつ、その観測的研究の検討を進めている。
    ・4つめは、Terredtrial Gamma-ray Flash (TGF)と呼ばれる雷放電に同期したガンマ線の観測で、別項目の「雷ガンマ線観測」に示すように我々がその地上観測で世界最先端にあることを生かした研究である。

    これ以外の貢献も含め、2027年の打ち上げに向けて準備を進めてゆく。

    ...