高エネルギー天体のX線データ解析による宇宙物理学の観測研究


Last update, 2023/12/16


    1:宇宙最大の天体に隠されている莫大な非熱的エネルギーはどれほどで、どこにあるのか?(銀河団、銀河群のX線観測研究)

    宇宙最大の天体、銀河団が合体するときの各段階を系統的に研究し、熱的な高温成分と、粒子加速・磁場・乱流などの非熱的なエネルギーの関係の解明を目指しています。2つの銀河団の中心が最初の再接近をする前の「衝突初期」(例:CIZA K1358.8-4750、下図参照)、最初の再接近から5-10億年の「衝突中期」(例:Abell 3667銀河団 1 2 , 3 , 4 )、そして乱流が発達した「衝突後期」(例: かみのけ座銀河団 )などです。GHz電波観測や理論研究者とも連携して、エネルギー密度で熱的成分の数割に達するケースもある非熱的なエネルギーの誕生と発展を探ります。

    2023年9月打ち上げの日本の最新X線衛星「XRISM」の精密なスペクトルを用いるとともに、1世代前のESAのXMM-Newton、日本の「すざく」、アメリカのチャンドラなどのX線天文衛星のデータを用いて銀河団の重力ポテンシャルに捉えられた高温プラズマの密度・温度分布、重元素分布などを調べます。特に「XRISM」の精密分光は高温ガスの動きと乱流をかつてない精度で示し、運動が粒子加速などに変換される様子を探る鍵を握ります。宇宙最大の粒子加速器がどのように稼働しているのかに、大きく迫ることができます。
    CIZA1359
    CIZA1359
    銀河団は、直径 300 万光年、重さは銀河1万個分、太陽の1015 倍もの質量を持つ「宇宙最大の自己重力系」 です。銀河団の重力ポテンシャルの深さは、速度にして秒速数千km であり、閉じ込められたガスはその重力エネルギーで1億度の灼熱のプラズマとなり、X線を放射します。これをX線観測衛星で撮像分光観測すると、プラズマの密度と温度の空間分布を計測でき、銀河団の重力ポテンシャルも推測できます。

    宇宙の「物質」の9割以上は我々の全く知らない物質「ダークマター」でできています。最近では、可視光の観測による「弱い重力レンズ効果」でダークマターの分布を測れるようになりました。宇宙にある「普通の物質(バリオン物質)」のうち、星・銀河を形成しているのは数%にすぎる、銀河団ではこの高温ガスはバリオン物質の主要成分になる。

    銀河団は宇宙論的な大規模構造の「節」にあたり、その形成の歴史は、宇宙の形成史でもある。大規模構造の中で2つの銀河団が合体する時、その衝突速度は秒速 3000 km に達する。運動エネルギーは数Mpcスケールの巨大な衝撃波を生んでガスを加熱するが、同時に衝撃波の中で粒子加速や磁場増幅が起きる。これはGHz電波で明るく輝くMpcスケールの広がった電波源 Radio Relic を産む。

    我々はAbell 3667銀河団の北西Relic(下図参照)で、相対論的電子と磁場のエネルギー密度が、高温ガスのそれの20%超えることを示した(Nakazawa+ 2009)。衝突で撹拌された銀河団ガスの中では大規模な乱流が発生し、その運動エネルギーは熱的エネルギーの20-30%に達すると予想されており、これは乱流加速を通じてまた粒子加速や磁場増幅を起こすと考えられ、その証拠が銀河団中心部に広がるGHz電波源の銀河団Haloとされる。近年 GHz 電波観測が急速に発展し、実際、Abell 3667の中心部には弱い電波Haloが誕生し始めている様子が見えている。たとえばこの領域の乱流を定量化できれば、「乱流から粒子加速へ」至る変換効率を検証できる。銀河団プラズマ中の乱流が一体どのくらいなのかはわかっていないが、XRISMでここを一気に開拓したい。

    A3667NWR A3667NWR


    2: その他の宇宙X線観測研究
    我々の銀河の銀河面からの広がったX線放射、超新星残骸、ブラックホール、ガンマ線バースト、中性子星連星などに興味があります

    宇宙は重力の力で物質がどんどんと集中してゆき、重力ポテンシャルが深くなることで高エネルギーになってゆきます。その究極の姿が、中性子星やブラックホールであり、その周辺は数千万度から数億度の高温になり、X線を強く放射します。中性子星には1015Gにも達する極限の強磁場を持つものもあり、まだ人類が解明できていない多様なX線・硬X線放射をしています。