重力波とは?
重力波は、アインシュタインの一般相対性理論によってその存在が予言された、潮汐的な時空の歪みが光速で伝わる横波です。加速度運動をする質量によって放射され、到達すると時空が歪み、物体間の距離が変化します。
レーザー干渉計による重力波検出
現在、最も有力な重力波検出方法はレーザー干渉計を使用するもので、重力波によって引き起こされる、鏡間の距離の変化を、マイケルソン・レーザー干渉計で測定します。マイケルソン干渉計は、垂直に配置された2本のアームの長さの差動成分に対して高い感度を持ち、空間に潮汐的な歪みをもたらす重力波の検出に適しています。また、レーザー干渉計型の重力波検出器の最大の利点は、両アームに共通の雑音はキャンセルできる点、アームの長さを延長することで検出感度を向上できる点にあります。
世界の重力波検出器
大型のレーザー干渉計型重力波検出器は、アメリカ(LIGO)、ヨーロッパ(Virgo)、日本(KAGRA)で建設されています。LIGOはアーム長が4 kmあり、ワシントン州とルイジアナ州に1台ずつ設置されています。Virgoはイタリアのピサ近郊に位置し、アーム長は3 kmです。KAGRAは日本の神岡町に建設され、アーム長3 kmで地面振動が少ない地下に設置されています。KAGRAでは熱雑音を抑えるため、低温鏡を採用している点が特徴です。
重力波の検出と重力波天文学の幕開け
2015年9月、アメリカのAdvanced LIGOによって重力波が初めて検出されました。これは、地球から約13億光年離れた場所で、太陽の約30倍の質量を持つブラックホール同士が合体した際に発生した重力波でした。この発見により、重力波天文学が新たに幕を開けました。その後も、いくつかのブラックホール連星の合体からの重力波が次々と検出されました。そして2017年8月には、中性子星連星の合体からの重力波がついに観測されました。この時、ほぼ同時にガンマ線バーストも観測され、さらに残光がX線、可視光~赤外線、電波といった様々な波長でも観測され、一挙にマルチメッセンジャー天文学が発展したのです。
重力波天文学の発展
さらに、これまでに行われた3回のAdvanced LIGOとAdvanced VIRGOの観測で、100以上のコンパクト連星合体が発見され、その結果、ブラックホールや中性子星の分布や成り立ちについて少しずつ理解が進んでいます。今後も、重力波によって、電磁波や宇宙線では捉えられなかった天体現象が観測されることが期待されており、私たちにこれまで知られていなかった新しい宇宙の姿を見せてくれるでしょう。
重力波検出器のコミッショニング
これらの発見を可能にしてきたのは、継続的な検出器のアップグレードです。アップグレードは観測ランの間に数ヶ月から数年にわたって行われ、性能が低下した部品の修理や問題が見つかった干渉計ミラーの交換、新たな検出技術や量子光学技術の導入、さらには真空装置のメンテナンスなどが実施されます。こうした作業のたびに、複雑な検出器の再統合と再稼働、そして感度の向上が求められるのです。このプロセスは「重力波検出器のコミッショニング」と呼ばれ、私たちのチームも大型重力波検出器のコミッショニングに貢献しています。さらに、最近ではAIやマシンラーニングの応用も検討を進めています。
新しいサイエンスへの応用
重力波検出器は、干渉計のミラーであるテストマスのわずかな変位をハイゼンベルクの不確定性限界に近い精度で測定することが可能です。この極限的な測定精度を活用して、近年ではレーザー干渉計型重力波検出器を、空間の量子ゆらぎやダークマター検出といった新たな用途に転用するための研究が進められています。私たちのチームでも、こうした新たな科学的応用を視野に入れた検討を進めています。