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名古屋大学大学院理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻 宇宙物理学研究室
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The Global Value of the Hubble Constant by Observations of Sunyaev-Zel'dovich Clusters of Galaxies with ASCA (スニヤエフーゼルドビッチ効果を用いた大域的なバッブル定数の決定)

古澤 彰浩

Abstract

銀河団は宇宙で最も大きな重力的に束縛された系であり、X線で最も明るい天 体である。可視光による銀河団中の銀河の速度分散の観測から、銀河団が大量 の見えない物質、いわゆる「ダークマター」を含むことが明らかになった。そ して、その質量は見える物質の約10倍にも達している。銀河団中の銀河と異な り、銀河団ガス(ICM)は散逸系であるため、その分布は銀河団を支えてい る重力ポテンシャルの分布を反映していると考えられる。従ってX線によるI CMの観測は重力質量やダークマターの分布を研究し、更に、宇宙の大規模構 造を理解する上で重要な役割を果たす。

銀河団の観測は「ハッブル定数の測定」という観測的かつ伝統的なアプローチ を行なうというもう一つの宇宙論的重要性を持つ。エドウィン・ハッブルは距 離梯子と呼ばれる方法によって比較的遠方の銀河の距離を測り、後退速度と距 離の間に比例関係があることを発見した。ハッブル定数とはこの関係の比例係 数である。このハッブル定数は、宇宙膨張ののタイムスケール(宇宙の年齢に あたる)と宇宙の大きさを決める、宇宙論における基礎的なパラメータの一つ である。しかし、基礎的パラメータであるにもかかわらず測定値はファクター 2の範囲、つまり、50 km sec-1 Mpc-1 〜 100 km sec-1 Mpc-1で分布しており、未だ確定した値は得られていない。ハッブル定数の 決定には宇宙膨張による天体の後退速度とその天体までの距離を独立に求める ことが必要となる。これまでの距離梯子による方法では適用範囲が数十万光年 以内に限られ、天体の固有運動が膨張速度に比べて無視できないため不定性を 生む。また、距離の指標となる標準光源の光度の絶対値、基礎にある物理過程 などの様々な不確定性が測定結果のバラツキを生んでいると考えられる。

Sunyaev-Zel'dovich効果は、マイクロ波背景放射のエネルギースペクトル (2.7 Kの黒体放射)が銀河団ガスの高速電子による逆コンプトン散乱をうけ、 その形が歪む現象である。この歪みの大きさは、銀河団ガスの温度と銀河団を 見通した時の電子数によって決まる。X線によって温度と電子密度が観測可能 であり、歪みの大きさを電波観測から求めることによって、銀河団の大きさを 直接求めることができる。見かけの大きさと比べることにより、銀河団の距離 を求めることが可能となる。この方法によるハッブル定数の決定は、膨張速度 に比べて固有速度が小さく後退速度の不確定性が小さい、基礎になる物理過程 が明確である、という点で、非常に優れている。さらに、我々から宇宙論的距 離(数十億光年)にある銀河団から大域的なハッブル定数を求めることができ る。

我々は「飛鳥」衛星により観測された6つの遠方銀河団を解析し、平均化され たプラズマ温度とX線光度を正確に導出した。更に、「飛鳥」衛星のX線望遠鏡 (XRT)の応答関数(PSF)の効果を考慮したβモデルを用いたイメージ解析法を開 発し、各銀河団について構造パラメータ(θc,β)を明らかにする ことに成功した。OVRO 40m single-dish radiometerによって得られた Sunyaev-Zel'dovich効果の電波データと「飛鳥」衛星のみから得られるX線デー タを用い、赤方偏移が0.17から0.54 (H0 = 59 km sec-1 Mpc-1を仮 定すると 685 Mpc - 1.5 Gpc)にある遠方銀河団、A2218、A665、Cl0016+16に ついて、宇宙の「大域的」ハッブル定数 59 ± 18 km sec-1 Mpc-1 を得た。単一のミッションにより得られたプラズマ温度、X線光度、温度や密 度の空間分布が、ハッブル定数の決定に使われたのは、本研究が初めてである。

A2218、A665、Cl0016+16から得られた本研究の結果は、ハッブル宇宙望遠鏡 (HST)による乙女座銀河団(H0 = 80を仮定すると17Mpc)のセファイド型変光 星の観測から得られたハッブル定数 80 〜 85 km sec-1 Mpc-1 に 比べ有意に小さい。この原因として、1 Sunyaev-Zel'dovich効果による決定 の系統誤差、2 近傍におけるハッブル定数の決定法の不定性、 3 空間的に 非一様な膨張を挙げ、議論を行なった。

 
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