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名古屋大学大学院理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻 宇宙物理学研究室
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Iron Kα Emission from Relativistic Accretion Disk of Active Galactic Nuclei (活動的銀河核における降着円盤からの鉄輝線放射)

見崎 一民

Abstract

活動的銀河核の中心には太陽の106〜109倍の質量を持つ巨大ブラッ クホールが存在し、そこにガスが落ち込んで重力エネルギーを解放することで その活動性を支えていると考えられている。活動的銀河核に見られる鉄蛍光輝 線は、中心核からの放射が周辺の物質と相互作用して再放射された成分であり、 中心核周辺の物質の運動状態、物理状態などの情報を提供する。しかし、 鉄K殻蛍光輝線のエネルギーは〜6.4keVであり、これまでの代表的なX線 天文衛星ROSATやEinsteinでは観測できないエネルギー域であっ た。また、2-20keVを観測帯域としていたGingaではエネルギー分解能 の不足のため、その構造にまで踏み込んだ議論は不可能であった。鉄輝線の 詳細な研究はX線望遠鏡とX線CCDカメラを搭載し、10keVまでの広いエネルギー 帯域で大有効面積を実現し、優れたエネルギー分解能を有す「あすか」によっ て初めて可能になった研究である。

「あすか」の長時間観測により、MCG-6-30-15という典型的なSeyfert銀 河の鉄輝線が非常に幅広く、しかも非対称な輝線プロファイルを持っているこ とが明らかにされた。〜4 keVの辺りまで低エネルギー側に裾を引いて非 対称に広がったこの鉄輝線プロファイルは、鉄輝線を放射している領域が重力 半径の10倍程度とブラックホールのごく近傍であり、強い重力場の影響と高 速回転による相対論的な Doppler 効果を受けていると考えると、その形状を よく説明出来る。つまり、この鉄輝線プロファイルは活動的銀河核の正体が巨 大ブラックホールと降着円盤という描像をはっきりと支持する直接的な証拠で ある。また、この鉄輝線は重力半径の数倍-数十倍程度というごく中心近傍の 降着円盤から放射されているということであり、謎に包まれた活動的銀河核の 中心部分の情報をわれわれにもたらしてくれる。

この成果をさらに推し進め、活動的銀河核の中心部分に迫るためには、この非 対称に広がった鉄輝線構造が他の活動的銀河核に common な現象なのか否かを 確認しなければならない。また、中心核ごく近傍の降着円盤起源の鉄輝線は相 対論的な Doppler 効果、及び、重力赤方偏移の2つの効果があいまって歪め られると考えられており、その輝線構造は輝線放射領域、降着円盤を見込む傾 斜角、降着円盤の電離度、などの諸パラメータに依存して様々な形になること が予想されている。加えて、鉄輝線は中心核からの放射が降着円盤で再放射さ れたものであるため、中心核の明るさに依存して変化することが考えられる。

我々は「あすか」衛星により観測が行なわれた5つのセイファート銀河に関し て、非対称に広がった鉄輝線構造は普遍的なのか、また、多様性が見られるか どうかを明らかにするために、特に鉄輝線に注目して解析を行なった。その結 果、広がって、しかもバラエティに富んだ鉄輝線の存在を確認することができ、 降着円盤起源の鉄輝線という描像が一般的な活動的銀河核に対して適用出来る ものであることを示せた。さらに、その多様性に関して、様々に異なる環境、 明るさを持っている天体で鉄輝線プロファイルの違いを比較することにより、 降着円盤の幾何学、構造を探った。中心核の明るさとの関連では、我々の選ん だ天体の中では特に顕著な違いとは結論できなかったが、鉄輝線強度と連続成 分の明るさとに逆相関がある傾向が示唆された。

異なる天体間で鉄輝線構造を比較すると同時に、同一の天体でのX線放射の変 化について解析した結果、強度、スペクトルの傾き、鉄輝線構造が変化してい ることを明らかにできた。明るさとスペクトルの傾きに関しては明るくなった 時に連続成分の傾きが急になるという傾向があることが知られていたが、解析 を行なった中で5日間連続で長時間観測が行なわれた IRAS 18325-5926 に ついて、その傾向を確認できた。しかし、Mrk 841 については半年の間をおい た2回の観測で得られたスペクトルを比較すると、明るさは変わらないが連続 成分の傾きが大きく変わっていることがわかった。また同時に鉄輝線構造も低 エネルギー側に裾を引いた成分がなくなるという変化を見せている。

X線は高エネルギーの electron cloud によって soft photon が散乱 (inverse Compton)されてつくり出されると考えられている。鉄輝線は降着 円盤とそれを照らすX線放射源との関係でどのようなプロファイルになるかが 決まる。連続成分の傾きは高いエネルギーを持った electron cloud の状態を 反映している。中心核の明るさ、連続成分の傾き、鉄輝線構造の変化から、活 動的銀河核の中心部分の high energy electron plasma と降着円盤がどのよ うな物理状態・構造であるのか、さらには、その放射機構について議論を行なっ た。

 
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