名古屋大学U研X線グループ
名古屋大学大学院理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻 宇宙物理学研究室
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The hard X-ray telescope with multilayer supermirror for balloon-borne observations
(多層膜スーパーミラーを用いた気球観測用硬X線望遠鏡の開発)

岡島 崇

金属の全反射鏡を用いた従来のX線望遠鏡は,10 keV 以上の硬X線領域には実 用的な感度を有していなかった。本研究では,ブラッグ反射を利用した多層膜 スーパーミラーを反射鏡として,世界で初めて硬X線に感度のあるX線望遠鏡の 開発に成功し,気球観測実験を通してその性能を実証した。

多層膜反射鏡は,重元素と軽元素を交互にある一定の周期長で積層し,ブラッ グ条件を満たす特定のエネルギーのX線に対し高い反射率を実現することがで きる。これに対しスーパーミラーは,周期長に変化を付けることによって,広 いエネルギー領域において十分な反射率を実現できる。本研究では,その設計 において,少ない積層数で広く滑らか,かつ,高い反射率を実現する「ブロッ ク法」を考案した。また,X 線の侵入深さを考慮し表面の重元素の厚さのみ厚 くすることで,全反射とブラッグ反射をスムーズに連結できることを示した。

Wolter I 型斜入射光学系を採用した硬X線望遠鏡を,焦点距離 8 m,口径 40 cm の多重薄板型望遠鏡として設計し,反射鏡への入射角の範囲は0.11 - 0.36度となる。これは従来のX線望遠鏡とほぼ同じ設計となっている。また, 気球高度(40 km)では,大気吸収によって 20 keV 以下のエネルギー領域では観 測できないため,20 - 40 keV に感度を持つように設計を行なった。プラチ ナと炭素の組合せを用い,入射角に応じて13種類のスーパーミラーを設計し, 40 keV まで 100 cm2 以上の有効面積を保った望遠鏡の設計に成功した。

製作した多層膜スーパーミラーは,40 keV までのエネルギーに対し,入射角 0.2 度以下で 40 %以上の反射率を達成した。望遠鏡として組み上げた結果, 30 keV において,50 cm2の有効面積を達成した。この値は設計値に対し 60 %低下しているが,各反射鏡の粗さ(平均 3.8 Å )と反射鏡間の位置決定 精度 (±13.2μm),反射鏡の形状精度 (FWHMで 1 分角の法線揺らぎ) によって説明がつくことを明らかにした。また,硬X線領域の視野は10 分角, 結像性能は 8 keVで 2.37分角(HPD)であった。この硬X線望遠鏡を用い,気球 による Cyg X-1 の観測を行った結果,S/N=200という高感度で Cyg X-1 の観 測に成功した。また,この時の強度は 0.93 counts/sec で,フラックスは 4.7 × 10-9 ergs/cm2/sec (20 - 40 keV)と求まった。

本研究で,集光撮像系による低バックグラウンドの実現によって,従来の100 倍以上の感度を達成できることを示した。硬X線領域でのこのような高感度撮 像観測によって,非熱的放射に注目した詳細な研究が可能となり,硬X線放射 の起源,宇宙における加速の解明など,今後の高エネルギー天体物理学へ大き なブレイクスルーをもたらしたと言える。

 
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