X-ray, hard X-ray and MeV gamma-ray study at Uxg group Nakazawa sub-group

中澤 知洋の研究ページ


Last update, 2023/6/22

    灼熱と粒子加速の支配する「高エネルギー宇宙」:宇宙は重力の力で物質がどんどんと集中してゆき、重力ポテンシャルが深くなることで高エネルギーになってゆきます。その究極の姿が、中性子星やブラックホールであり、その周辺は数千万度から数億度の高温になり、X線を強く放射します。宇宙大規模構造の節にある宇宙最大の自己重力系、銀河団は、数千の銀河の大集団ですが、その重力ポテンシャルの深さも温度にすると1億度程度であり、そこに捕らえられたガスはこれもまたX線を強く放射します。このような灼熱の天体は、エネルギー的に宇宙の天体進化も支配する重要な天体です。重力エネルギーの解放や、あるいは超新星爆発などで、秒速数千kmのガスの流れができると、これが周囲のガスと衝突して衝撃波を形成します。衝撃波では運動エネルギーが熱エネルギーに変換されますが、同時にGeV、TeV、PeVを超える高エネルギー粒子を加速します。非熱的なエネルギーは実は熱的なエネルギーの数割に達することが多く、この非熱的宇宙もまた天体進化に大きな影響を与えます。我々はこれらの高エネルギー宇宙観測研究、そのための将来衛星搭載の装置開発研究、また、雷ガンマ線研究など、最先端の装置開発と観測研究を進めています。

    A: X線を用いた高エネルギー天体のデータ解析の先端科学
    B: 次世代の衛星搭載のX線・MeVガンマ線観測を切り開く最先端の装置開発と大気球による実証実験
    C: その技術を応用して自然界で唯一観測可能な電場加速器、雷雲中の電子加速を研究するための雷ガンマ線の観測装置開発と冬季の金沢での観測実験
    などを実施します。超小型衛星関連の開発も目指しています。

NEWS:
  • 2023/6/22:【研究成果】「宇宙最大規模の衝撃波で消費されるエネルギーを測定 --最も近くの衝突が始まったばかりの銀河団--」のプレスリリース を出しました。当研究室のD1大宮君と中澤准教授を中心とするグループの成果です。 こちらをご覧ください。同時に 天文台の藏原博士らによる電波観測の結果も発表されています。 Web メディアなどでも取り挙げられました
  • 2023/3/20-22:金沢に設置した検出器を回収しました。今シーズンは12/15, 12/23 に明るい雷ガンマ線の観測に成功しました。現在解析中です。
  • 2023/3/22-25:日本物理学会において中澤准教授が将来衛星FORCEの検討チームを代表して講演しました。
  • 2023/3/20-22:金沢に設置した検出器を回収しました。今シーズンは12/15, 12/23 に明るい雷ガンマ線の観測に成功しました。現在解析中です。
  • 2023/3/13-16:立教大で開催された日本天文学会において、当研究室のM2 大宮悠希君が衝突銀河団の発表を、大熊佳吾君がMeV気球実験の観測装置miniSGDの開発についての発表をしました。
  • 2023/3/6-8:横浜市の関東学院大学で開催された高エネルギー宇宙物理連絡会(高宇連)研究会において、高宇連中澤准教授が将来計画委員長として講演しました。
  • 2022/11/6-9:金沢に検出器を設置し、2022年度の雷ガンマ線観測を始めました。
  • 2022/10/25:初期の衝突銀河団 CIZA J1358.9-4750 の銀河団ガス(ICM)の中に立っている衝撃波のジオメトリーを明らかにした論文 "XMM-Newton view of the shock heating in an early merging cluster, CIZA J1358.9-4750" がPASJ掲載にアクセプトされました。当研究室のM2学生大宮君と中澤准教授を中心に執筆を進めてきたもので、衝突で圧縮された領域を明確に捉え、簡単な仮定の下でその3次元構造を検証したものです。
  • 2022/10/21:当研究室のM2 大宮悠希君が、「第1回 XRISM Core-to-Core Science Workshop (2022.10.19-10.21)」で29名のポスターの中からポスター賞(優秀賞)を受賞しました。 Core-to-Core Science Workshopでは、XRISMの画期的なX線分光能力をいかした観測計画の提案のための知識獲得およびサイエンスの議論が活発に行われました。大宮君は自身の衝突銀河団の論文(Omiya et al. 2022)をベースに、そのほかの衝突銀河団の観測研究を提案したポスターを発表しました。受賞の写真はこちら。左から2人めが大宮君です。詳細は Workshopのweb をご覧ください。
  • 2021/10/19:アメリカのMeV観測衛星計画 COSI が最終セレクションを通過し、2025年の打ち上げを目指した開発が始まりました。COSIは、NASAの小型科学衛星SMEX計画の最新の仲間です。Ge半導体を用いたコンプトン望遠鏡であり、我々の銀河系に広がる星々や星間空間からやってくる重元素のガンマ線輝線を最高精度で観測します。また、サブ検出器を用いた雷ガンマ線TGF観測も実施します。日本からは中澤と東京大学KavliIPMUの高橋らが参加しており、名大はサブ検出器の開発サポート、雷ガンマ線の観測研究のリードを担当し、MeV観測の解析にも参加します。 詳細は こちらのNASAのリリースをご覧ください。
  • 2021/8/16: "Multiple Gamma-Ray Glows and a Downward TGF Observed From Nearby Thunderclouds" (Hisadomi, Nakazawa, Tsuji et al. JGR Atmospheres) 論文が公開されました。


  • 大学院を志すみなさんへ+PDを検討している皆さんへ

  • 私たちは、宇宙物理、特に高エネルギー現象に興味のある人、人工衛星を使って未知の天体現象を探ってみたいひと、自然界におけるまだ未解明の粒子加速、例えば雷雲中でのMeV電子静電場加速の研究をしてみたい人などを募集しています。


    装置開発 (B)では特に硬X線、MeVガンマ線の観測装置開発で衛星搭載や気球実験を目指した先端装置開発を進めています。半導体コンプトンカメラを用いた宇宙MeVガンマ線の気球観測装置の実証実験 miniSGD を進めています。先端のCdTe両面ストリップ検出器やMPPC光センサーを用いたアクティブシールドを用いており、同時に2030年代の世界の硬X線観測衛星の将来計画の主検出器の技術実証も兼ねています。今こそ、将来衛星の搭載機器の設計を決定する時です。宇宙MeVガンマ線観測の世界では、ついに27年ぶりの全天MeV観測衛星であるNASAのCOSI衛星が2027年の打ち上げ予定で開発が進んでいます。「感度の谷」としてなかなか観測が進まなかったため、逆説的に新発見の宝庫と期待されるMeV宇宙観測の機運が高まってきました。アメリカのUC バークレー校やNASAを中心とする計画に、我々と東大Kavli IPMUが開発メンバーとして参加しています。

    観測研究 (A)では、2023年度には、革新的な精密X線分光を実現するXRISM衛星の打ち上げられます。X線分光観測を革新するビッグイベントです。XRISMは過去の衛星の30倍も優れた、まさに桁違いのX線輝線分光能力を有しており、希少な重元素の精密測定などに加えて、輝線のドップラー測定を用いた宇宙の高温ガス(宇宙のバリオンの大半が高温ガスです)のバルクな運動の測定により「静止画を動画にする」力があります。さらに輝線の広がりを用いて世界で初めて直接的な乱流の測定が実現します。宇宙における粒子加速の大きな部分を占めると考えられている乱流加速など、これまで複数の理論はあるもののその検証が不足して決着のつかなかった問題の理解が、大きく前進することは間違いありません。我々は衝突銀河団の動的な姿の研究などを進めています(大宮et al. 2022 PASJ)。

    雷ガンマ線観測研究 (C)では北陸の冬季雷という世界で最も雷ガンマ線を観測しやすいところに、名大中心で2箇所の大型検出器と4箇所の小型観測装置を展開し、阪大や理研などと共同で40箇所を超える小型観測装置により観測網を構築しています。2019年度から金沢に展開している雷雲からの継続ガンマ線(ガンマ線グロー)の方位測定用の観測装置2台に加えて、2022年度には雷放電由来の突発ガンマの指向性観測を観測する新型の観測装置も2種類設置しました。大学院生と4年生を中心に開発研究、現地での設置と観測(秋から翌春)、その後のデータ解析研究を続けています。観測装置のベースとなるシステムは、宇宙硬X線・MeVガンマ線観測装置のそれと共通にすることで、小型軽量高性能でかつ低消費電力としており、さらに装置の改良を通じて、衛星搭載機器への技術のフィードバックも目指しています。

    詳細は本ページの下の方を参照ください。
    少しでも興味が沸いた方は、遠慮なく中澤までメールください(連絡先nakazawa_at_u.phys.nagoya-u.ac.jp)。当グループでは名大だけでなく、関東や関西など大学出身の学生も広く募集しています。。

    研究室ガイダンス@2022/5/28のスライドより

    X-ray, hard X-ray and MeV gamma-ray study at Uxg group Nakazawa sub-group X-ray, astronomy and its future with the XRISM observatory
    Hard X-ray and MeV gamma-ray new detector development for FORCE, miniSGD and other future missions
    New acceleration physics with thundercloud gamma-ray observation. As the GROWTH team.

  • 研究の狙い

  • いま、宇宙に対する人類の理解は、急速に進んでいます。例えば、この宇宙はまだまだ若く進化の途中であることがわかってきました。世界が豊かで、我々が生命を育めたのも、まだ若い宇宙にいるからなのです。宇宙には世界観を変えるような、人類の想像を超えた現象がしばしばみられ、今も新発見が続いています。この中で我々は「硬X線・MeVガンマ線」という高エネルギー光子の宇宙観測を軸に、こうした謎に迫ろうとしています。特に100 keV前後の硬X線やMeVガンマ線は人類の観測の到達感度がまだまだ未熟で、未発見の物理現象が多く隠されています。最近になって宇宙ガンマ線観測衛星での検出をきっかけに、我々の身近の雷雲にすら不思議なMeV粒子の加速機構が発見されました。この加速の原理がわかれば、宇宙の他の領域でも同様の加速が起きている可能性を議論できるかもしれません。本グループでは、このように「高エネルギー×宇宙」をキーワードに研究を進めています。

    宇宙には高温・高エネルギーの天体が沢山おり、宇宙の今の姿に大きな影響を与えています。 銀河の中心にあってX線で明るく輝く巨大ブラックホールは、銀河の進化を制御していると考えられており、 宇宙最大の天体である銀河団はダークマターと1億度の高温プラズマの塊です。 このプラズマは銀河の質量の10倍近くありバリオンの主成分で、X線で明るく輝いています。 超新星の残骸もまた爆発の運動エネルギーを衝撃波によって急速に熱に変え、数千万度の高温となってX線で輝きます。

    宇宙ではしばしば粒子加速が起き、相対論的なエネルギーを持つ粒子が大量に存在します。これを「非熱的宇宙」と言います。 例えば我々の銀河の中で宇宙線がもつエネルギー密度は、星間ガスのそれよりを上回っており、 分子雲ガスの成長や星生成に大きく関わっているとされるなど、宇宙の今に大きな影響を与えています。 こうした相対論的粒子は、GeV・TeVガンマ線や電波観測から研究されていますが、上記の高温のプラズマの中で生まれるとされているにもかかわらず、 まさに粒子が加速しはじめるところ、すなわち熱的宇宙から非熱的宇宙が生まれるその場所やその仕組みは、いまだにわかっていません。 当グループではこうした謎を解決するための観測研究、さらには将来その突破口を開くための衛星搭載の先端観測装置の開発に取り組んでいます。

    詳細は本ページの下方に記述と各研究ページへのリンクがあります。


  • プロフィール


  • 略歴:1974年、横浜生まれ。東京大学物理学科を経て、大学院理学系研究科へ進学。
    2001年 博士(理学)取得。
    前々職:宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙科学研究本部 高エネルギー天文学研究系 助手
    前職:東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 講師
    現職:名古屋大学 素粒子宇宙起源研究所(KMI)・理学研究科素粒子宇宙物理学専攻 准教授
    連絡先:nakazawa_at_u.phys.nagoya-u.ac.jp (_at_を @ に差し替えてください)

    プロフィール詳細
  • 研究の詳細

  • 以下に、大きく3分野に分けて、我々の研究の紹介をまとめました。