名古屋大学U研X線グループ
名古屋大学大学院理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻 宇宙物理学研究室
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超新星残骸
1.超新星残骸とは?

超新星残骸とは何でしょうか?恒星、その中でも質量が太陽の数倍以上あるよ うな大きな星はその進化の果てに超新星爆発と言われる大爆発を起します。 この爆発によって放たれるエネルギーはすさまじい量で、この銀河系全ての星 の明るさを越えてしまうほどになります。これほどの大爆発になるとその痕跡 が何万年にも渡って残り、様々な形で観測することができます。これが超新星 残骸と呼ばれるものです。

宇宙の化学的な進化はそのほとんどが恒星の中での核反応で行われます。はじ めは水素とへリウムしか存在しなかった宇宙で、様々な元素が誕生したのは恒 星の中なのです。これらの重い元素は超新星爆発を通して宇宙空間に放出され ます。超新星残骸を研究するということはすなわち、宇宙の化学的な進化を調 べる事でもあります。

では、超新星残骸はどのような形で我々に観測されるのでしょうか?その形態 は大きく分けて2つに分類することができます。1つは、大きく広がった高温 のプラズマの塊として観測され、多くの場合殻状の球形をしているため、シェ ル型超新星残骸と呼ばれます。これは、超新星によって飛散した星の残骸(イ ジェクタと呼びます)が、音速を大きく越えて飛び散るために衝撃波が発生し、 この衝撃波によって一千万度以上の高温に加熱された星間物質やイジェクタそ のものが見えているものです。この超新星残骸は時間と共に次第に形態を変え、 進化していきます。その進化の課程は4つに分類され、

  1. 自由膨張期
  2. 断熱膨張期
  3. 放射冷却期
  4. 消滅期
と呼ばれています。自由膨張期は飛び散ったイジェクタが何にも妨げられるこ となく自由に広がっている状態です。この状態では、超新星のエネルギーはイ ジェクタの運動エネルギーに大半が使われており、ほとんど光を出しません。 この状態が約100年ほど続きます。時間が経ち、飛び散るイジェクタによって 発生した衝撃波(ブラストショックといいます)に掃き集められた星間物質の量 がイジェクタとほぼ同質量になって来ると断熱膨張期に入ります。衝撃波は飲 み込んだ物質を圧縮、加熱していく性質があるので、掃き集められた星間物質 は非常に高温に加熱されます。この時期の衝撃波の速度は数百から数千km/sec 程もあり、これによって加熱された星間ガスは数千万から数億度にもなります。 また、衝撃波は密度の高くなったガスの殻に跳ね返され内側に向かっても走り 始め(これをリバースショックと言います)、イジェクタ自体も加熱します。こ の加熱されたガスはその温度に応じたX線を放射します。ただし、その量は超 新星残骸全体のエネルギーに比べると非常に小さいので超新星残骸そのものは ほぼ周りとのエネルギーのやり取りのない断熱状態にあると言えます。この時 期が約1万年ほど続きます。さらに進化が進むと、膨張するのに使うエネルギー が超新星残骸全体のエネルギーの中で大きな割合を持つようになってきて、膨 張速度が遅くなり、超新星残骸は冷え始めます。高温ガスは数百万度程度の温 度では冷えれば冷えるほどたくさんの放射を出すようになり、冷えたガスは局 所的に収縮して、なお効率よく放射を出すようになるので、エネルギーを放射 の形で吐きだし続け、一気に超新星残骸の温度が下がり始めます。この状態が 放射冷却期です。超新星残骸はこの後もさらに冷えていき、周りの星間空間と 区別がつかなくなり消えていき、消滅期へと移行していくことになります。こ のとき密度の低い中心部分はいつまでも冷えずに残り、宇宙にホットバブルと 言われる泡状の構造をつくります。
もう一つの超新星残骸は、その代表的な天体の名を付けて蟹星雲型と呼ばれま す。超新星が起ったときに、その中心に星の核が残る場合があります。恒星で はその巨大な重力を核反応のエネルギーで支えていますが、その核反応の燃料 が切れたときに超新星爆発を起し、中心に残った核は自らの重力で収縮してい きます。この重力はすさまじいもので、原子の構造さえも破壊し、電子は陽子 に取り込まれ中性子となっていきます。元の星の質量がある程度以下だと、収 縮は中性子の縮退圧という圧力によって止められます。この状態が中性子星と いわれる中性子の塊の星です。この星はわすか10km程の直径の中に太陽1個分 よりまだ多い質量を含みます。さらに質量が大きいと中性子の縮退圧でも収縮 は止まらず、物質はシュバルツシルド半径と言われる事象の地平の彼方へ落ち 込んでいってしまいます。この中からはあまりの重力ゆえに光すら脱出するこ とができず、その中をうかがうことはできません。これはブラックホールと呼 ばれます。蟹星雲型超新星残骸の正体は中性子星です。この中性子星は元 の恒星が持っていた角運動量をそのまま持って収縮しているので、1秒間に数 回から数百回という凄まじい速度で回転しています(フィギュアスケートで回 転している人が腕を縮める事で高速で回り出すことを思い出してください)。 さらに、元の恒星の磁場をも圧縮しているので、中性子星の表面では1兆ガウ スもの磁場が発生しています。これだけの磁場をこのスピードで回転させると 磁気双極子輻射を発生します。これがパルサーです。蟹星雲の中心にも蟹パル サーと言われるパルサーが存在します。さらに、ほぼ光速に近いスピードで回 転する磁場の先端では磁場によって荷電粒子が加速され可視光やX線で輻射を 発生します。これが蟹星雲型超新星残骸の正体です。
2.「あすか」の成果
「あすか」は超新星残骸の研究に極めて大きな進歩を齎しました。それは、 「あすか」のX線望遠鏡が10keVまでの非常に高いエネルギーにまで感度を持っ ていたことと、検出器のCCDカメラがそれまで主に使われてきたガス検出器と 比較して極めて高いエネルギー分解能を持っていたことによります。以下に 「あすか」によって研究された超新星残骸の主な成果を書いていきます。
2-1. シェル型超新星残骸
シェル型超新星残骸でX線で観測できるのは、断熱膨張期にある生まれて数百 年から1万年くらいの間にある超新星残骸です。この時期の超新星残骸は上に 述べたように高温ガスの塊で、その高温ガスからの熱的放射がX線で観測され ます。このガスは光学的に薄く、中に含まれる重元素からの特性X線が大量に 見られます。その輝線の強さから、高温ガスに含まれる重元素の化学組成を知 ることができるのですが、超新星残骸中のガスはイオンの電離状態が平衡状態 に達していないため、化学組成を調べるのが非常に難しくなっています。数千 万度にも加熱されたガスはプラズマといわれる電子がイオンから剥がれた状態 (これを電離すると言います)になっており、その電離の進み方次第で輝線の強 度が大きく変わります。プラズマの電離状態は電子とイオンの衝突によって電 子が剥ぎ取られる量と、電子が再びイオンに捕獲される量が一致したときに平 衡になり、そのときの状態はプラズマの温度で決まるのですが、超新星残骸の 様に非常に薄いプラズマだと、電子とイオンの衝突が起りにくいため、平衡に 達するのに数千年から数万年もかかってしまうのです。したがって、電離の状 態は温度だけからは決めることができません。これを知るためには、電離状態 が異なるイオンから発せられる微妙にエネルギーの異なる輝線の強度を調べる しかないのですが、今までの検出器のエネルギー分解能ではそれができません でした。「あすか」のCCDカメラはその高いエネルギー分解能でそれを可能に しました。「あすか」は、例えば、電子を一個しか持っていない珪素と2個持っ ている珪素から出てくるK特性X線のエネルギーを分離してみることができるの です。これにより、温度と独立に電離度を決めることができ、超新星残骸中の 正確な化学組成を知ることができるようになりました。さらに、結像と分光を 同時に行える「あすか」では、超新星残骸中の場所による細かい状態の変化を 知ることができるようになりました。これらの「あすか」の成果は超新星残骸 の進化の研究に非常に大きな進歩を齎しました。
カシオペア A
カシオペア Aカシオペア A は生まれてから3百年ほどの非常に若い超新星残骸で、ちょうど 自由膨張期と断熱膨張期の間にあると言われています。そのため、光っている 物質の大半はイジェクタです。「あすか」によって、場所ごとにスペクトルの 変化を調べたところ、輝線のエネルギーがドップラー効果によって低くなって いるところと高くなっているところがあることがわかりました。これは、イジェ クタが手前に向かって飛んできているところと、奥に向かって遠ざかっている ところがあることを示します。その分布を詳細に調べたところ、ドーナッツの ように帯状にイジェクタが飛び散っていることがわかりました。これは、巨大 な質量の星が爆発を起こすダイナミズムに大きな影響を与えました。
白鳥座網状星雲

白鳥座網状星雲は、1万年以上もの年齢になる古い超新星残骸です。地球から の距離も近いために視直径で3度もある巨大な天体です(太陽の視直径は約0.5 度)。この大きさから、超新星残骸の細かい構造を調べるのに非常に適してい ます。「あすか」では、場所ごとに細かくプラズマの状態が調べられ、これほ ど年老いた超新星残骸でも未だに電離平衡に達していないことがわかりました。 また、周辺の星間雲との衝突の様子も観測され、衝撃波が星間物質との相互作 用でどのように進化していくかも調べられました。

この天体で最も興味深い発見に、極めて強い珪素の輝線を放つ「シュラプネル」 といわれる存在があります。これは、爆発時に飛び散った星のかけらがそのま ま塊として残っているものと考えれます。

W49B
この天体は、電波で観測されたシェルとX線で明るい場所が大きく異なる変わっ た超新星残骸でした。シェル型に分類されるにも関わらす、X線では中心付近 が最も明るかったのです。「あすか」によって観測された結果、その中心部か らは極めて強いアルゴン、カルシウム、鉄と言った物質の特性X線が発見され ました。これらはリバースショックで加熱されたイジェクタからのものだと推 測されましたが、さらに驚いたことに、各元素で独立に温度と元素を調べたと ころ、各々の元素で異なっているという結果になりました。さらに、各元素の 輝線の分布を調べると、重い元素ほど中心に集中する事がわかりました。これ は、星が爆発したときに物質が混ざり合わず、「玉ねぎ構造」といわれる元素 ごとに層をなす構造を残したままイジェクタが広がっていることを示します。
SN1006
SN1006SN1006は超新星爆発が文献に残っている超新星残骸です。この超新星残骸は極 めて特殊なもので、銀緯の高い、密度の薄いところで爆発しました。形はきれ いなシェル型をしているのですが、輝線の強度が極めて弱く、おそらく密度が 低いため電離が進んでおらず、輝線が出難いのではないかと推測されていまし た。ところが、「あすか」の観測により、シェル状に広がっているのは熱的な 成分ではなく、非熱的な輻射であることがわかりました。高温プラズマから発 せられる輝線はシェルと言うよりむしろ一様に広がっており、シェルをなして いないことがわかりました。この原因は衝撃波がおこすフェルミ加速によって 加速された荷電粒子が磁場と相互作用して非熱的なX線を放射していたことに あったのです。この発見により、パルサーがいなくても超新星残骸には非熱的 な広がった成分が付随するらしいことがわかりました。これは、いくつかの超 新星残骸で議論されてきた、硬いX線の起源について道を示したものと言えま す。

2-2. 蟹星雲型超新星残骸

「あすか」は過去のX線望遠鏡と比較して、高いエネルギーまで結像できるた めに、非熱的な成分だけを取り出して見ることができます。「あすか」でパル サーを見ると、その多くに非熱的起源を持つと思われる広がったX線源(パルサー ネビュラと呼びます)が付随することがわかってきました。これらは、パルサー から発せられたパルサー風が原因と考えられます。パルサーの回転がが時間と 共にだんだん遅くなるのは良く知られた事実ですが、それによって失うエネル ギーがどこに運ばれているのかは謎のままでした。パルサーネビュラーの明る さは、この回転の遅くなり方に非常に良い相関を示します。もし、このパルサー ネビュラがパルサー風に起因するのであれば、パルサーが失っているエネルギー の行方の大きな鍵となるはずです。
 
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