名古屋大学U研X線グループ
名古屋大学大学院理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻 宇宙物理学研究室
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研究プロジェクト
近傍の天体のX線観測(星生成領域)
へびつかい座星生成領域の原始星からのX線放射

 太陽のような恒星は、その表面温度によって見かけの色が変化し、表面温度6000℃の太陽では黄色であるのに対して、太陽の10倍以上と質量の大きな早期型星などでは青く(表面温度>10000℃)、晩期型星と呼ばれる年老いた星は赤く(表面温度<3000℃)見える。 一部の特殊な星を除いて、恒星はその一生うちの9割を我々の太陽のような主系列段階と呼ばれる段階で過ごす。 
 この段階は非常に安定(星の明るさの変化もほとんどない)であり、可視光領域で最も明るく、古くから天文学の研究対象となり、その温度と光度がわかれば、その星の現在の年齢や質量などを、かなり正確に予言する事が可能である。
 一方、誕生期の星は、その星の原材料でもあるガスや塵の塊である星間物質のただ中に存在するため、非常に観測が困難である。 これは、星から発せられた光がそのガスや塵によって遮られるためで、これによって、星の実際の温度や光度の決定ができなくなるためである。
 このような星間物質は我々の銀河(天の川)全体にわたって広がっているが、特に星間物質が濃い領域では、そのガスや塵が自己重力により収縮し、集団で星が誕生する事が知られている。 通常太陽の星の寿命は100億年程度と見積もられているが、このような星生成領域に存在する星の年齢は一千万年以下と非常に若い(人間で言えば生まれて数週間程度)。

図
 その減光は数等から数百等級と非常に大きい(減光が10等級の場合、星間物質がない場合に1等星の星がその1万分の1の10等星の明るさになる)ため、このような原始星の観測は通常可視光では困難で、透過力の強い赤外線やX線による観測が主流ある。
 このような観測が可能であるのは、単にこれらの波長の物質の透過力(赤外線は塵に対して、X線が塵及びガスに対して)が強いからだけではなく、これら原始星が主系列段階と比較して非常に高い活動性を示す事による。 これは、星間物質の原始星への降着現象に伴う激しい赤外線放射と、強い磁場と星の速い自転速度によって駆動される星表面物質(100万度以上の高温プラズマ)の激しい加熱現象に起因する。
 これらの原始星は赤外線観測によって、その年齢の若い順(厳密には赤外線観測による中心星と中心に落ち込む周辺物質との量の比による)に、I−IIIの型に分類されるており、中でもI型は年齢10万年以下のまさに生まれたばかり(人間で言えば生まれて1日以内)の若い原始星である。
 この様なI型の原始星は全天の星の内100万分の1程度しか存在せず、その大部分は減光が100等級以上相当(ある星の可視光での明るさが1040分の1になる事に相当)の高密度の星間物質に埋もれ、たとえアメリカのハッブル宇宙望遠鏡をもってしても(その限界等級は28等で、肉眼で見える限界である6等級の星の数億分の1の微光天体を検出可能)可視光での観測は事実上不可能である。
図2
 へびつかい座暗黒星雲は、全天で最も活発な星生成領域で、我々の太陽系の近隣に存在し(距離〜500光年)、最も研究が行われている星生成領域である。 この領域には、このようなI型原始星が密集しており、絶好の研究対象である。
 赤外線観測で得られる情報は、原始星本体および星周辺の塵(太陽系の惑星の原料となる)のものであり、原始星表面での超高温現象についての情報は何ももたらさない。 一方、X線による撮像観測による研究は過去、1980年代にはアメリカのアインシュタイン衛星によって、1990年代以降はドイツのROSAT衛星によって精力的になされたが、これらの観測機器は透過力の弱い低エネルギーX線による観測であるため(感度領域<4キロ電子ボルト以下;減光にして10等級程度相当まで)、検出された原始星の99%以上がIII型原始星に限られていた。 そのため、I型原始星の検出例は皆無であり、そのような天体のX線領域における活動性はまったくの謎に包まれていた。
 1993年に打ち上げられた日本のX線天文衛星ASCAは、これら海外の衛星と比較して高エネルギー領域までの高い感度を持ち(<10キロ電子ボルト;減光等級にして〜100等級相当)、I型原始星を初めて検出する事に成功した。 
 ASCAはそれまでの撮像型X線天文衛星と比較して、波長分解能、集光能力ともに一桁向上し、X線天体の中では最も暗い「恒星」の、高エネルギーX線スペクトルを得られる唯一の衛星であり、この特徴により減光の大きな原始星のような微光天体を検出することが可能である。
 ASCAによるへびつかい座の観測データの、天体の同定、X線スペクトル、時間変動の詳細な解析によって、中心領域に19の原始星を検出し、このうち3つがI型原始星を検出し、その内の一つ(Elias29)太陽の1万倍の規模のフレアを起こしていることが初めて明らかになった。
図3

 さらに、検出された天体のうち5割が激しい変動をしており、内5つの原始星からこれと同程度の超巨大フレア(太陽半径と同程度のサイズ)を起こしており、平均して4日に一度はこのような激しいフレア現象を起こしていることが判明した。
 中でも特筆すべきは、Elias29のフレア中のX線スペクトルにおける吸収量が静穏時に比べてはるかに大きい事から、I型の段階ですでに原始惑星系円盤が形成され始めているという傍証を得る事ができた。
 誕生期の星の産声は、我々の太陽のフレアなどおよびもつかない、暴力的とも言える激しさを示すのである。

図4

参考文献

" X-Ray Analysis of the rho Ophiuchi Dark Cloud with ASCA: Source Identification,
X-Ray Spectra, and Temporal Variability,
Publ. of the Astronomical Society of Japan, v.49, p.461-470. (1997)
KAMATA, Y., KOYAMA, K., TSUBOI, Y., and YAMAUCHI, S.

 
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