名古屋大学U研X線グループ
名古屋大学大学院理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻 宇宙物理学研究室
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近傍の天体のX線観測(月)
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月の観測とX線天文学の関わり

 1962年以前、X線源として知られていた天体は太陽のみであった。 そのため、初めての太陽以外のX線観測の対象は月表面で散乱された太陽X線であった。 1962年6月19日、1.5-6キロ電子ボルトのエネルギー領域で感度をもつガイガーカウンターを積んだロケットが打ち上げられ、その初の観測が行われたが、期待に反して月からの有意なX線は検出する事はできなかった。
 しかし、この時偶然にも、現在全天で最も明るいX線天体として知られているSco X-1が発見され、これが現在のX線天文学の幕開けとなった。
 一方、月のX線観測はその後アポロ15−16号の計画中に月軌道探査機によってその蛍光X線が観測される事になった。 地球軌道上からのX線撮像観測は30年後のドイツのROSAT衛星によって行われ、これにより月は最も暗いX線天体(太陽より17桁以上暗い)として同定された。

アポロ計画:月表面の元素組成を調べる
 同じ性能(感度)の観測装置で同じ明るさの天体をより詳しく観測するには、その天体の近くに行くのが一番早道である。 天体までの距離が半分になれば見かけの明るさは4倍になる。 月は探査機を飛ばせる距離であり、月軌道上に観測機器を投入すればその距離は約38万キロから110キロまで縮まり、見かけの明るさは一気に1000万倍に跳ね上がる。 この事は、検出器の感度が7桁向上する事に相当し、逆に言えば低い感度の観測機器でも十分な科学的成果が得られる事を意味する。
 アポロ計画では、アルミニウムとケイ素が太陽からのX線を受けて再放出する特性X線(蛍光X線)に感度を持つように設計された比例係数管と呼ばれるX線検出器を月面上に向けてその強度の空間分布を調べた。 これにより、月の高地の方が海よりも相対的にアルミニウムの量が多い事がわかった。 しかしながら、この観測は撮像観測ではないため、月軌道探査機が通った領域の一部である、月の北緯0°〜25°、東経15°〜50°の狭い領域に限られていた。 アポロ計画は17号をもって終了し、その後現在までこのような観測は行われていない。
ROSATによる観測:初めてのX線撮像観測

 月の全体像をX線で観測するためには、初期のX線検出器と比べてはるかに高い感度を達成しなければならない。 さらには、撮像型のX線望遠鏡を地球軌道上へ投入する必要があり、これらの条件を満たすまでに、アポロ計画から30年を待たねばならなかった。 ドイツのROSAT衛星はこの月のX線における全体像を初めて捉えた衛星で、0.1-2キロ電子ボルトのエネルギー領域でのX線像を撮影する事に成功した。 
ASCA衛星による観測結果:X線で撮像と分光を同時に行う

 ASCA衛星は世界で初めて非分散型分光撮像素子であるX線CCDを搭載し、2キロ電子ボルト以上ではそれまでのX線天文衛星より一桁大きな集光能力を持つX線望遠鏡を搭載した衛星である。 これにより、一度の観測で撮像と分光を同時に行う事ができる。
 前述の月からの散乱X線は1キロ電子ボルト以下の軟X線と呼ばれる領域での放射が圧倒的に多いが、月の表面に豊富に存在するアルミニウムやケイ素の特性X線は1.5-2.0キロの領域の存在し、これらの空間分布を調べるためには、これらを波長分解した撮像を行う必要がある。 ASCAはこのような能力を備えた初めての衛星で、2日間に渡ってこのような観測が行われた。
 しかしながら、月の観測には大きな困難が伴う。 これは観測中に月が視野内を移動するために、それに合わせて常に視野を移動させる必要があるためである。 ASCA衛星には惑星や衛星の追跡機能は備えていないため、実際の観測は月の予想位置で定点観測を行い、月が視野内を通り過ぎる度に視野を移動するという離れ業を行う事になった。
 実際の観測は1993年7月10−11日の期間、11回に渡って行われ、視野内を移動する月の刻一刻の画像(1画像当り光子数個程度)を再合成する事でようやく月の姿が描き出される事になる。
 このようなデータ解析の行程を経て得られた月のX線像を以下に示す。

図
さらに、月の全体の平均的な元素組成比を調べるために、X線スペクトルを調べた(下図)。
図2

 観測でアルミとケイ素の特性X線が有意に検出され、これらの強度比から月表面の平均的な元素の組成比(数の比)を調べる事ができる。 解析によって得られたアルミとケイ素の比は1:2程度である事がわかった。
 地球から月の資源の情報をリモートセンシングによって得られるのは、驚異的な事ではあるが、実際に宇宙開発に役立つような質の情報としては、まだまだ不十分である。 有人探査の計画が立たれた現在、無人探査機による月の観測は行われているが、X線分光観測は30年以上も行われていないのが現状である。 月表面の元素組成をさらに詳しく調べるためには、宇宙科学研究所のセレーネ(SELENE)のような、蛍光X線分光計を搭載した科学衛星等の将来計画を待たねばならないだろう。

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